農業・食品産業技術総合研究機構
近畿中国四国農業研究センター
中山間傾斜地域施設園芸チーム
吉川弘恭
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、
以前に農林水産省の農業試験研究機関であったものが
行政改革の一環として独立行政法人化された機関ですが、
さらに再編が進み、
2006年4月からは、旧食品総合研究所や農業工学研究所、農業者大学校を統合して、
農業生産から食品の加工・流通に至る農業・食品産業技術の研究・開発の一体的な推進
および農業の担い手育成を行う我が国最大の機関となりました。
農研機構は専門研究所と地域特性に対応した試験を行う地域研究センターから構成されていますが、
私たちの所属する近畿中国四国農業研究センターが行う試験研究の柱のひとつには、
中山間傾斜地域での農業技術開発があります。
中山間傾斜地域は、
狭小な耕作地、低い資本力、高齢化の進行等、様々な問題を抱える地域です。
こうした地域では、何よりも低コストであり、
お年寄りでもあつかいやすい技術であり、
その上に小さな耕作地でも生産性の高い技術が必要となります。
狭い土地でも高い生産額を得られる農業形態というと、
集約型の施設園芸が頭に浮かびます。
施設園芸では、コンピュータ制御で環境や灌水、施肥を自動化する技術も発達してきましたが、
その分コストも高くなり、操作に不慣れな人にはなかなか普及しません。
そこで、ソーラーポンプを利用した自動管理装置を考案しました。
この装置は、小流量の水を貯水タンクに揚水し、
タンクに一定量の水が溜まると重力を利用して、水洗トイレの様に一気に配水する仕掛けで、
広い面積への潅水を可能にします。
作物は日射量が多いほど沢山の水を必要するので、
ソーラーポンプを利用すれば、日射量に応じた潅水施肥を行い、
農地外への肥料成分の流亡も少なくなるため、
環境にも優しい技術です。
バルブの開閉度合いで、灌水量を変えられますので、
機械操作に不慣れな人にも使い易い仕組みです。
この装置に必要なポンプは毎分10L(リットル)程度の揚水能力で十分ですが、
低価格で、耐久性が高く、ソーラー電源で作動する必要があります。
プティオの小型水中ポンプは、重さはわずか260gですが、
ブラシレスポンプで耐久性が高く、
出力9.6Wと、20Wのソーラーパネルでも十分な揚水が可能で、
日射量に応じて液肥を供給するシステムのコストを半分以下に出来ました。
農業の分野での市場規模は限られていますが、
家庭菜園や、ヒートアイランド現象が問題になっている大都市での緑地や
屋上緑化に視野を広げれば
数十億円の市場を展望出来るのではないかと夢は広がるところです。
ポンプ自体の大型化による大規模施設園芸への適応だけでなく、
逆に小型化して
都市部での小面積の緑化や
家庭菜園も視野に入れた製品開発が期待されるところです。
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